
花と宝石、2つの世界を彩る想い【マロッタ忍(talkative)× 橘優子(花屋「橘」)インタビュー】
2018年、talkative 表参道店がオープンした際に「花と宝石」という企画を実施しました。
そして今回の大阪店オープン時にも、また「花と宝石」を…と考えたときにtalkative デザイナーのマロッタ忍がコラボレーションを熱望したのが、逗子にある花屋「橘」の橘優子さんです。偶然が重なり合った2人の出会い、そして紡いできた物語を綴ります。
偶然の出会い、共鳴する感性
マロッタ:15年ほど前、バーニーズ ニューヨークで自身で販売していたとき、私が持っているのと同じストールを巻いたお客様がいらっしゃって。びっくりして声をかけたのが優子さんだったんです。橘:talkativeが好きで、ポップアップイベントに訪れた際のことでした。
マロッタ:その当時、優子さんは広告制作会社に勤めていて、talkativeのwebを制作いただいたりお付き合いしていくうちに共感することが増えて。制作から販売までひとりで行うことが多かった時期から少しずつブランドとして成長するフェーズだったので、talkativeを内部から見てほしいと思うようになりました。

橘:私自身は、花屋になる準備をしていた時期。実現に向けて働き方を考えていたこともあって、マロさんから提案を受けて、花の修行もしつつtalkativeの営業・ブランドディレクションというダブルワークで働くことにしたんです。そしてtalkativeで3年ほどご一緒した後に、花屋「橘」として独立しました。
マロッタ:talkativeでは、いろいろなことを一緒に積み重ねてきました。表参道店をオープンする時に、植栽はミモザが良いのではないか?とアドバイスをくれたのも彼女。私はあまり植物には詳しくはないけれど、ブランドカラーのレモンイエローにぴったりで、毎年春の訪れに黄色い花が咲くのを見るたびにブランドのシンボルツリーになってくれたなと実感します。なので、大阪店にもミモザは必ず植えたいなと思いました。
大阪店は、リバーサイド沿いの建物の1階で、箱庭になっているのが気に入って。抜けも良くて、空気も流れている感じが心地よくて…。素敵な場所が決まってオープン日をいくつかの候補日から検討していましたが、スタッフの「3月15日だと、サイコー(最高)の日ですね」という一言で、その日に決定しました(笑)。最高の日に、最高のおもてなしでお客様をお迎えしたいと思ったときに、いまコラボレーションをお願いするなら「橘」だと。

橘:talkativeの内側に入り、中の人になってその魅力を伝えたりブランディングを一緒に考えることも楽しかったです。そこから花屋を実現して別々の道となりましたが、個人的にいつかまた一緒になにかやりたいと思っていたので、こうして声をかけて頂いて光栄…ですし、緊張もあります。
マロッタ:こちらこそ、嬉しいです。逗子で花屋を営む優子さんに大阪でのイベントをお願いすると、お花はどう準備する?とか解決すべき点もありましたが、でも最終的にやっぱり私の中でお願いしたいなと思ったのは「橘」だったから。それには理由があって、私はいつもスタッフに「talkativeはモノを売っているブランドではない」と伝えているのですが、彼女の花屋でも同じことを言っているのを知っているから。
橘:花もジュエリーも生活する上では必須ではなくて、だからこそモノだけを売るんじゃなくて、その先にあるお客様のストーリーに共感することや、花を通じてワクワクして頂けるような提案を大切に考えたいと思っています。
マロッタ:お互いにそういう価値観を持っていて。それは初めの出会いから、共に働くようになって会話のキャッチボールをしていくうちに、何かを作り上げていくことに関して共感や信頼関係を築いてきたと思っています。

花も、ジュエリーも、感情や想いを伝える媒体
橘:「橘」では、「わたしたちは、誰かの愛を伝達する」ということを企業理念にしています。花屋ってクリエイティブに思われるのですが、花そのものが美しいから1輪でも成立しているんです。だから尊いのは、花そのものと、誰かに花を贈りたいと思う人の気持ち。その誰かというのは、恋人や友人、家族であったり、自分自身に対してということもあります。毎週欠かさずに来店いただく方もいて、自分の気持ちや生活を少しでも明るくしようとする気持ちに触れると、自分自身に対して愛情を注ぐお手伝いをしているようですごく温かい気持ちになります。
マロッタ:自分自身を大切にする、誰かへの愛を表現する。そんな気持ちを伝えるという点は花と宝石の共通点ですね。
橘:そうですね。花も、ジュエリーも、ただのモノではなく、感情や想いを伝える媒体だから。花もジュエリーも誰かを思い浮かべながら選んでいる時間に本当に心惹かれるし、この時間そのものを相手の方に見せてあげたいなって思うくらい。
マロッタ:優子さんは花を選ぶ時、どんなところを気にしていますか?
橘:たとえば同じ品種の花でも1つとして同じものはなくて、色ののり方や大きさ、花付き、葉の状態などが細かに異なります。すべての中から特に鮮度が高く生命力に満ちた花を重視して選んでいます。
そして常連さんの顔を思い浮かべながら「この色、あの方がお好きそうかも」と思って手に取ることも多いです。マロさんの石選びはどうですか?

マロッタ:地球の深いところで育つ間にインクルージョン(内包物)をもつものも生まれたりと、自然が生み出す石もやっぱり1つとして同じものはなくて。私は石が生きてきた過程を感じられるものにとても惹かれるのですよね。無二の表情をもつものだからこそ、その内包物を含めても石そのものが美しく見えているのか?というのは慎重に見極めるようにしています。色の彩度やカットのフォルムも大事にしていて。大きすぎるルースや、仕立てるデザインに合わせて、さらにリカットしたり、一手間を惜しまないように石と向き合ってます。


橘:私も、たとえば柄が綺麗な胡蝶蘭がたくさん出ていたとしても、その中から自分が特別に美しいと思ったものしか買わないようにしています。
マロッタ:そこを少しでも譲歩してしまうと、やっぱり店頭に並べた時のクオリティが少し揺らぐのよね。あと、前回完売したからという経験値に頼ってたくさん買ってしまおうなどということもしないようにしています。やっぱり一期一会の出会いだから、いつも新鮮な目線で石とじっくり対峙して厳選することが大切。ロットでしか販売していないところでも、欲しい石だけをお願いって心と心のコンタクトを繰り返して買い付けをしています(笑)。


橘:1つひとつの小さな積み重ねがブランドのいまをつくり、そして未来につながる…。そう思うと、大阪店はtalkativeの1番新しい表現がつまっている場所。そしてマロさんは人を喜ばせたり、驚かしたりするのが好きで、サービス精神がすごい強い人。人が好きだし、人に対する感謝がとてもある方なので、そんな彼女がつくる新しいショップを私もとても楽しみにしています。
マロッタ:嬉しい。新しい場ができることで、新しい繋がりや広がりが生まれていった先にある楽しい予感に心が躍っています。オープン日の 3/15(土) -16(日)は、黄色い花屋となった「橘」が店内に登場します。talkativeのブランドカラーにちなんだ黄色いお花は、ご来店いただくお客様にプレゼントさせていただきます。優子さんも気に入ってくれるであろう、大阪店の空間に「橘」の花が並ぶ景色を見るのが楽しみです。ぜひ新しいtalkativeに多くの人に足を運んでもらいたいです。

interviewed by Naoko Murata
photo by Chihaya Kaminokawa

Profile
橘神奈川県逗子市の花屋。「わたしたちは、誰かの愛を伝達する。」を掲げる花のコンシェルジュ集団。
@tachibana.florist
橘優子
1981年香港生まれ。両親の仕事の都合で13歳までを香港で過ごす。株式会社電通テック、spfdesign Inc. で広告制作のプランナー/ディレクターを経て、表参道の花屋「ディリジェンスパーラー」へ。出産を機に2020年、「橘」をオープン。